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「蟹工船」と間接雇用について

再脚光を浴びているという「蟹工船」。戦前の原生的な労働関係を描いた作品の中で,どうしてこの作品がとりわけ注目を集めているのでしょうか。


この作品には「周旋屋」という悪質な有料職業紹介業者に騙されて,蟹工船に連れてこられる学生上がりが登場します。

周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈(はず)がなかった、とブツブツ云っていた。
「独(ひと)り寝だなんて、ウマイ事云いやがって!」
「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」
 学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団(ふとん)、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが始めて分ったとき、貨幣(かね)だと思って握っていたのが、枯葉であったより、もっと彼等はキョトンとしてしまった。――始め、彼等は青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固(かたま)っていた。

現在は労働基準法で前借金相殺の禁止が定められていますので,このような事態にはならない,と信じたいところですが,解禁された製造業の労働者派遣の募集広告には,誇大広告にしか見えないようなものが少なからずあるようです。

1947年,職業安定法が制定され,その第44条で,周旋屋等による間接雇用が原則禁止されます。

戦前戦中の労働者の悲惨な経験が礎となって(GHQの主導によるものではあっても),せっかく成し遂げた間接雇用の禁止。

それが1985年制定のいわゆる「労働者派遣法」によって崩れはじめ,1999年の大改正で,合法的な間接雇用が一気に広がってしまいました。

今こうして,「蟹工船」が再び読まれるようになったのは,この「労働者派遣事業」の名の下に合法化された間接雇用への憤りが根底にあるのかもしれません。

この「労働者派遣法」も,さらなる規制緩和が検討されているとの噂が絶えませんでしたが,昨今の事件の影響で,その在り方について見直しが迫られているようです。

労働者派遣法の在り方が見直されるのは好ましいことなのですが,そのきっかけが痛ましい事件によってではなく,政治が派遣労働者の方々の声に耳を傾けてのことであったら良かったのに,そうでなければならなかった,とも思います。

それはさておき,労働者派遣法の在り方の見直しが,現代の格差社会・過剰な競争社会・お金で買える豊かさばかりを煽る社会・・を見直すきっかけになることを願って止みません。

「勝ち組」に所属することを誇示することが「格好良い」時代は,遠からず終わりを告げると信じたいです。

思うに,周囲に「負け組」と呼ばれる人たちがひしめき合っていたら,自分達だけ人並みはずれた贅沢をするのは,気が引けたり,いたたまれなくなったりするのではないでしょうか?

もし「勝ち組」のその人が,そうした感情に微塵も捉われない人なら,チヤホヤするに値しない人物なのではないかと・・あくまで私の個人的価値観なのですが・・,
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コメント

コメント(9)
No title
蟹工船はタコ部屋のバリエーションの一つだと思いますが、戦後タコ部屋労働が禁止されても未だにこれに近いことは行われているようですね。

間接雇用が合法化されて以来、勝ち組に数えられる極小数の上層部分を除いて、労働者全体の生活レベルは確実に低下していると思います。社会不安も増したと感じます。ネットカフェ難民は見た目じゃ分らないのですが、20~30代のホームレスというのも見かけるようになりました。もう一度戦後の出発点に帰って、間接雇用を再度非合法化するべきだとわたしは思います。

トンコ

2008/06/24 23:34 URL 編集返信
No title
鍵コメさま,「蟹工船」が話題になる世の中,私も不安を感じます。昭和初期の日本史は学校であまり重点的に教えないと思うので,この作品がひとつのきっかけになってくれるといいな,とは思います。

カッタウェイ

2008/06/24 23:42 URL 編集返信
No title
トンコさん,派遣制度は,少なくともかつてのポジティブ・リスト方式時代に戻すべきだと思います・・が,戻す際に大混乱が起こることも予想できるので,そちらも心配です。
全国に1万社!あるという派遣会社の社員も心配です。

カッタウェイ

2008/06/24 23:56 URL 編集返信
No title
山積みの蟹工船見ないですね。積むそばから売れているのでしょうか。
私も直接雇用主流になるべきだとは考えていますが、私個人は派遣でないとおそらく雇ってもらえないので、制度がなくなるのは心配です。

chargeup2003

2008/06/25 20:17 URL 編集返信
No title
chargeupさんがお住まいのほうでも,山積み蟹工船見かけないですか。電車で読んでいる人にも出会ったことがないです。
派遣会社が,通常の派遣より紹介予定派遣と人材紹介を強化して,求職者と企業を(直接雇用で)結びつけることに専念してくれればいいのでは,と思うのですが,成約料がかなり高額なのと会社によってまちまちなので,普及するにはまだ課題がありそうです。

カッタウェイ

2008/06/25 23:39 URL 編集返信
No title
こちらではお久しぶりです(敬礼)
私の会社も派遣制度を使っているので、この問題はちょっと微妙な感覚で捉えています。

労働者側においても終身雇用制を敬遠している風潮があり、事業者側が業務をこなせる人材を安定的に確保することが難しくなっているのと、(とくに地方でよくあるのですが)子どもを保育中の女性に、事務職などの軽作業で短時間勤務を選択したいというニーズがあります。
間接雇用じたいに問題があるという視点もわかるのですけれど、私は目線が事業者よりすぎなのかな・・・労働者側にとっても労働市場の流動性には益があるので、派遣というシステムじたいには肯定的なんです。事業者側のいいように利用されないよう、同一内容同一賃金制度は義務化すべきだと思いますが(これはパート職も同じ)

しかし、とくに製造業で派遣制度が雇用の調整弁として活用(←この「活用」は揶揄)されている現状は腹立たしいです。そういう企業が高収益を上げていると、なおさらです。

わたりとり

2008/07/17 00:42 URL 編集返信
No title
わたりとりさん,フレキシブルに働きたいという労働者側のニーズと,臨時に即戦力となる人材が欲しい,という企業側のニーズが派遣会社を通じて出会う,というのが派遣制度のあるべき姿だった・・と思うのですが,リストラ・規制緩和の波で,当初の理念はぶっ飛んでしまったかのように見えてしまいます。
2009年問題を目前に,製造業の派遣がどのように見直されるのか,注視していきたいと思っています。

カッタウェイ

2008/07/17 21:18 URL 編集返信
No title
こんにちは。確か、連合かどこかが最終的に派遣労働をOKとしたときには、経営側に、そんなに悪いように派遣を利用するほど、悪い経営者ばかりでないから、と言われて納得したが、蓋を開けてみたら…みたいなのを読んだことがあります。派遣という形態が出来たことにより働けるようになった人がいるというのも事実だとは思いますが、ちょっと行き過ぎてしまった感がありますよね。

que*t*_13

2008/07/21 18:58 URL 編集返信
No title
派遣制度,どんどん規制緩和されて,一線を越えてしまった感があります。今度の改正がどのような内容となるか,注視したいと思っています。

カッタウェイ

2008/07/21 21:41 URL 編集返信
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