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ツルゲーネフ「けむり」

私が一番好きな恋愛小説です。

主人公の男性がいささか優柔不断で、なぜ美女二人から寵愛を受けるのか、得心がいかないきらいはありますが(ただのひがみです)、登場する女性、イリーナとターニャはどちらも大変魅力的です。


【イリーナ】
魔性の女、というのとは少し違うのでしょうが、類まれな美貌を持ち、少女時代に主人公を捨ててペテルブルグへ行き伯爵夫人となった後、偶然再会した主人公(婚約中)を再び虜にしてしまうイリーナ。

どれほどの容姿だったのか、なかなか想像もできませんが、作中の表現では

「しかもそのすがすがしく澄んだ顔には、臙脂(べに)も、顔料も、眉ずみも、粉おしろいも、何ひとつ人工はほどこされていないのだ。・・・・・・そう、まさにこれこそ美人なのだった。」
ツルゲーネフ「けむり」神西清訳 河出書房新社「世界文学全集9」)

と、大絶賛。つまり「すっぴんでもキレイ」ということを文学的に語っただけなのですが、イリーナこの時、確か27歳。完全ノーメイクでこれほど完全無欠とは驚きの自然美だったに違いありません。




【ターニャ】
対する主人公の許嫁、ターニャの天使ぶり。
婚約中の身でありながら、昔の恋人で今や伯爵夫人となったイリーナに骨抜きにされ、別れを切り出そうとしてモゴモゴしている情けない主人公に助け舟まで出してあげるのです。

「わたしがお手伝いしましょうね。あなたはもうわたしを愛していらっしゃらない、-それをどうわたしに言ったものか、迷ってらっしゃるんです」

情けない主人公は、「違う、愛が冷めたんじゃなくて、別の恐ろしい感情が襲いかかって、ぼくをのみこんでしまった。できるだけ抵抗はしてみたんだが・・。」とどことなく他人事的な言い訳をする始末。

対するターニャは

「あなたは、ほかの女のかたが好きにおなりになったのね」

「それがどなただか、わたし察しがつきますわ。・・・・・・きのう道で出あったあのかたでしょう、ちがいまして?じゃいいわ!こうなった以上、わたしに残された仕事は、ちゃんとわかっています。あなたのその感情は変えることができないと、ご自分でおっしゃるからには・・・・・・」

「わたしはただ、あなたにお返しするまでです・・・・・・あなたのお約束を」
と見事な別れ際を見せます。

結局、イリーナに再度裏切られ、失意のまま、人間世界のいっさいのものを「煙だ、煙だ」と言い捨てて領地に戻る主人公。領地を立て直した3年後、ターニャに復縁を迫ることに。

「いつかそのうち相見る時もあろうかという考えを、永久に捨てなければならないのだろうか」と、これまたどこか他人事っぽい手紙をターニャへ送り付けると

「もしわたしどもをたずねようとのお気持ちでしたら」

「どうぞいらしてください。病人でさえ、はなればなれでいるよりは、いっしょにいたほうが楽だと言いますもの」

と大変寛大な返事。結局、主人公は(おそらく)ターニャと結ばれ、めでたしめでたしとなります。

私も、この結末に胸をなで下ろした読者の一人なのですが・・。

この作品を読んだ知人は「安全パイのほうを選んだ」とコメントされていました。安全牌でない相手のほうが、恋愛相手としては満足度が高いということかもしれません。

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コメント

コメント(6)
No title
何と、男性にとって都合のいい女性でしょう。いかにも男性から見た一方的な理想像という感じで怒りがわいてまいります。と、既に化粧をしないと家から1歩も外に出られない私はひがむのでした。

chargeup2003

2015/07/05 10:38 URL 編集返信
No title
確かにchargeupさんのおっしゃる通り・・。

作品を読んでみると、作者はどうもイリーナ系の女性のほうが好きだったのではないかという気がします。

ターニャに対してはイリーナの口から「どこかの粘液質(のろま)なお嬢さん」と語らせており、ひょっとしたら高慢ちきな美貌の女性を崇拝して翻弄されているほうが楽しいタイプだったのではないかと勝手に想像しています。

カッタウェイ

2015/07/05 11:10 URL 編集返信
No title
読んでみたくなりました。
最近この手の既に古典?の域に達している小説は
読まなくなりました。
読む力が衰えている証拠ですね

歌姫

2015/07/05 11:20 URL 編集返信
No title
うたひめさん、古典小説?は確かに読み始めるのに少し気合いが要りますよね。この作品も途中から劇的に読みやすくなるものの、導入部分はかなり退屈で困った記憶があります。

カッタウェイ

2015/07/05 14:20 URL 編集返信
No title
煙のうた、ご存知の方いらっしゃいますか?

as

2018/01/09 13:22 URL 編集返信
No title
> asさん
煙のうたは存じ上げません。申し訳ありません。

カッタウェイ

2018/01/09 22:39 URL 編集返信
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