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「書記バートルビ」/「二十六人の男と一人の少女」

私はこれまで、読み始めた小説は長かろうと短かろうと、大抵は読み終えてきたのですが、何年経っても読み終えることができない(つまり、滅多に頁をめくることがない)小説が二つばかりあります。

一つ目は、完読が困難なことで知られるプルーストの「失われた時を求めて」。

二つ目は、決して読みづらいわけではないのに、どういうわけか10年前から中断したままになっている、メルヴィルの「白鯨」です。

それというのも、この筑摩書房の「白鯨」に、ひっそりとおまけのように添えられている短編「書記バートルビ」のインパクトがあまりに強かったので、本を取り出すと、ついついこの短編ばかり読み返してしまい、肝心の「白鯨」はそっちのけになってしまうからなのです・・・。


【書記バートルビ(メルヴィル著・阿部知二訳)】

(あらすじ)
法律事務所の書記として採用された物静かな若者、バートルビは、まずは物凄い勢いで筆耕をこなした。しかし、採用から三日ほど経った日に、事務所の所長が書類の写しの検査を命ずると、バートルビは穏やかな、確乎たる口調で「ごめんこうむりましょう」と命令を拒絶する。

やがて、バートルビは書類の読み合わせや雑用ばかりでなく、書類の筆耕まで「ごめんこうむります」と拒絶するようになり、ただ窓の外の壁を見つめるばかりとなる。

やがて、事務所の所長が彼を解雇するが、それでもバートルビは事務所から出ようとせず、ついには所長が事務所を移転させることになるが・・。

(感想)
使用者からの当然の要求に対し、後先考えずに「ごめんこうむります」を連発するこのバートルビ。ものすごいインパクトがあります。

原文では「 I would prefer not to 」となっているらしく、きっぱりした拒絶というよりは、酒本雅之訳のように「せずにすめばありがたいのですが」くらいのほうが適当らしいのですが、最初に目にしたこの訳が私の脳に刷り込まれてしまいました。

宝くじにでも当たらない限り、口にすることはできない言葉ですね。




【二十六人の男と一人の少女(ゴーリキー著:上田進・横田瑞穂訳)】

(あらすじ)
地下室のジメジメしたパン工場で、劣悪な労働条件のもと、巻パンを作っている26人の労働者たちは、毎日パンを取りにくる16歳の少女ターニャを「神聖にして犯すべからざるもの」としてほとんど崇拝している。

彼らの隣室には白パンの製造場があり、数人の職人がいたが、彼らより厚遇を受けていたため、両者の交流はほとんどなかった。しかし、その白パン製造場の職人の一人が解雇され、兵隊あがりのハイカラな好男子が雇い入れられた。

彼は、自分がいかに女性にもてるかを吹聴しに巻パン製造場を訪れる。26人の男たちのひとりが、つい「雑魚をつかまえるのはわけあねえが、鯉をつかまえるのは難しかろうぜ・・・・」と口をすべらせたことから、兵隊あがりの男が二週間以内にターニャを陥落させることができるかどうか、賭けをすることになってしまう。

(感想)
この兵隊あがりの男が言うことには、もてる男というのは、押しの強さ、身なり、腕力が大事なのだそうです。

その真偽のほどは分かりませんが、男性にしろ女性にしろ、それぞれ立場が強い(もてやすい)時期があり、またその理由についても、時期によって変化するように感じます。

先天的なものなのか、後天的なものなのか。努力や経験によって何とかなるものか、ならないものなのか。

17歳の美少女、ターニャを籠絡させることは、彼女を女神のように祭り上げ、崇拝している26人の男たちには実現不可能なことのように思われたものの、先天的なもてる素養と豊富な経験を持つ兵隊あがりの男には容易なことであったようです。

物語終盤では、兵隊あがりの手に落ちたターニャを26人の男たちが取り囲み、罵詈雑言を浴びせかけます。一方的な神格化・崇拝は、裏切られると怒りに転じるのでしょう。

ターニャは男たちを嘲るように「いけすかない奴ばっかしだわ・・・・」と叫んで立ち去ってしまいます。

悪いのは、どう考えても26人の男たちなのですが、彼らに感情移入してしまうのは、私に兵隊あがりのような先天的素養がないことの表れに違いありません。


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コメント

コメント(8)
No title
どちらも読んでみたくなりました。
そして失われた時…と白鯨も読んでみたいと思ってました。
失われた時…は読み始めたらどれくらいの年月がかかるのだろう…と不安になってしまいます(笑)

eveningstar

2016/01/25 09:20 URL 編集返信
No title
イブさん、「失われた時・・」は一巻のあと数ページというところでリタイアしてしまったので、完読に何年かかるか想像もつきません。

あの有名なマドレーヌと紅茶のくだりは読み終えたので、そこである程度満足してしまったのが敗因のようです。

バートルビは確か、光文社から新訳が出ておりましたので、機会がありましたら是非。

カッタウェイ

2016/01/25 18:49 URL 編集返信
為になる記事ありがとうございます。

藤本稔和

2020/01/19 16:14 URL 編集返信
No title
ブログ拝見しました。また訪問させていただきます!

岡田雅登李

2020/01/19 16:14 URL 編集返信
読ませていただきましたのでお礼がわりにコメントを。

山科誠人

2020/01/19 16:14 URL 編集返信
カッタウェイ・カラー
To 山科誠人さん
コメントありがとうございます。こちらこそお礼申し上げます。

カッタウェイ

2020/01/19 17:37 URL 編集返信
カッタウェイ・カラー
To 岡田雅登李さん
ご訪問、コメントありがとうございます。またお出でいただけると嬉しいです。

カッタウェイ

2020/01/19 17:38 URL 編集返信
カッタウェイ・カラー
To 藤本稔和さん
ご高覧とコメントいただきありがとうございます!

カッタウェイ

2020/01/19 17:40 URL 編集返信
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